• Home
  • About
  • Blog
  • 2016/12/29 22:08

    僕はKiroroの『長い間』がわりと好きなのです。


     


    玉城さんの芯の強いボーカルと金城さんの切なげなピアノがメロウに絡み合っている。

    サビの「愛してる でも まさかね そんなこと言えない」のメロディラインはJ-POP史上に燦然と輝いている。


    Kiroro本人の曲解説は以下のとおりです


    知り合いの男性と、長い付き合いをしていた女性の方がいました。

    長い付き合いのようでしたが、男性が仕事の都合で結婚を待たせていたようです。

    彼女は30歳までに結婚をしたいという願望があったのですが、何も言わずに待っていてくれたそうです。

    この歌は、もし彼女の立場だったらこんな風に待ってるだろうな


    とのことです。

    それを踏まえ、歌詞を見ていくと、とてもよくできているのがわかる。


    登場人物は【君(彼女)】と【あなた(彼)】の2人。

    彼が彼女を【君】と呼び、彼女が彼を【あなた】と呼んでいる。


    歌詞

    http://j-lyric.net/artist/a000500/l00013c.html


    まず注目したいのは1番の歌詞「君の笑顔が胸をさらっていく」の部分です。


    ”長い間 待たせてごめん


    久しぶりに逢った時の

    君の笑顔が胸をさらっていく


    彼女の笑顔に彼の胸はときめく。

    そしてサビを飛ばして2番の歌詞を見ていきます。


    ”あなたのその言葉だけを信じて

    今日まで待っていた私

    笑顔だけは 忘れないように

    あなたの側にいたいから”


    そう、アンダーラインのこのフレーズにおいて

    1番の歌詞「君の笑顔が胸をさらっていく」が回収されるのである。


    2人は長い間にいろいろな感情があったと推測される。

    それでも彼女は笑顔で待っていたのである。

    その笑顔に彼もまた笑みがこぼれ、次の歌詞につながる。


    ”笑ってるあなたの側では 素直になれるの

    愛してる でもまさかねそんな事言えない”


    ここが素晴らしい。

    素直になれると言っているのに「愛してる」とは言えない。

    乙女心というやつですか。

    すごくよい。


    それから最後のパートはサビを二回繰り返します。

    サビの途中で鳴るハープの音色がとてもよい。


    ”気づいたのあなたがこんなに 胸の中にいること

    愛してる まさかねそんな事言えない

    笑ってるあなたの側では 素直になれるの

    愛してる でもまさかねそんな事言えない


    気づいたのあなたがこんなに 胸の中にいること

    愛してる まさかねそんな事言えない

    笑ってるあなたの側では 素直になれるの

    愛してる でもまさかねそんな事言えない”


    こうして『長い間』はピアノに導かれるように静かに綺麗に終わっていく。



    ところが僕はこのサビに大きな気がかりがあります。

    「まさかね」の連呼です。

    ついつい*米倉斉加年(よねくら まさかね)が連想されるのです。

     


    それに釣られて、小説『*ドグラ・マグラ』の表紙絵の女も一緒に浮かんでくる。

    そう、その表紙絵を米倉斉加年が描いたのである。

    とてつもない絵である。

      


    こうなると僕にとってもはや最後のサビは悲惨である。

    彼女は表紙絵の女になり、

    「まさかね」が「斉加年」に置き換わってしまったのである。


    ---------------------------------------------


    長い間、斉加年が女を待たせていた。

    女は笑顔で待っていた。

    そして1人胸の中でつぶやく。


    (愛してる 斉加年…

    そんなこと言えない…)


    時を同じくして、また斉加年も言葉を飲み込む。

    (愛してる…)

    でも、斉加年、そんなこと言えない。


    ---------------------------------------------


    ここに切なくこじれた愛の物語が誕生したのである。


    おわり


    *米倉 斉加年(よねくら まさかね)

    生没年 1934-2014

    俳優・演出家・絵本作家・絵師


    *ドグラ・マグラ

    1935年 夢野久作によって書かれた日本三大奇書の一つである。